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残業代請求など労務問題18件を扱う顧問弁護士(法律顧問)

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刑事事件の判例

このブログでは、逮捕などの刑事事件についての裁判例を紹介しています。
1 本件公訴事実の要旨は,「被告人Aは株式会社日本債券信用銀行(以下「日債銀」という。)の代表取締役会長であった者,被告人Bは日債銀の代表取締役頭取であった者,被告人Cは日債銀の代表取締役副頭取であった者であるが,被告人3名は,共謀の上,日債銀の業務に関し,平成10年6月29日,大蔵省関東財務局長に対し,日債銀の平成9年4月1日から平成10年3月31日までの事業年度(以下「平成10年3月期」という。)の決算には2205億700万円の当期未処理損失があったのに,取立不能のおそれがあって取立不能と見込まれる貸出金合計1592億3300万円の償却又は引当をしないことにより,当期未処理損失を612億7400万円に圧縮して計上した貸借対照表,損益計算書及び損失処理計算書を掲載するなどした同事業年度の有価証券報告書を提出し,もって,重要な事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を提出した」というものである。
 検察官は,後記資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準が,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)32条2項にいう「公正ナル会計慣行」としては唯一のものであって,これによれば日債銀には平成10年3月期には公訴事実記載の未処理損失がある旨主張した。
 第1審は,公訴事実どおりの事実を認定して,被告人Aに対し懲役1年4月,3年間執行猶予,被告人Bに対し懲役1年,3年間執行猶予,被告人Cに対し懲役1年,3年間執行猶予の各判決を言い渡し,原審は,事実誤認,法令適用の誤り等を理由とする各被告人の控訴をいずれも棄却した。
2 原判決の認定及び記録によれば,本件の事実関係は以下のとおりである。
(1)銀行法が昭和57年4月1日から施行されたことなどに伴い,大蔵省銀行局長が同省の監督権限に基づいて発出した「普通銀行の業務運営に関する基本事項等について」と題する通達(いわゆる「基本事項通達」。昭和57年4月1日付け蔵銀第901号)の中に決算経理基準(以下「改正前の決算経理基準」という。)が定められており,これが長期信用銀行である日債銀にも適用され,日債銀等の銀行においては,これに従った決算処理を行ってきた。
 銀行の貸出金の貸倒れとしての損金額算入又は損金経理による債権償却特別勘定への繰入れについては,法人税基本通達(平成10年課法2-7による改正前のもの)9-6-4等が定めており,特に,9-6-4(1)においては,債務者につき債務超過の状態が相当期間継続し,事業好転の見通しがないこと等の事由が生じたため,当該貸金等の額の相当部分の金額につき回収の見込みがない場合に,その回収の見込みがない部分の金額を債権償却特別勘定に繰り入れることができるとされていた。
 そして,大蔵省と国税庁の協議に基づく不良債権償却証明制度により,金融証券検査官が回収不可能又は無価値と判定した債権(4分類)及びこれに準ずる債権として証明した不良債権の金額は,原則として法人税法上損金として容認される扱いとなっており,大蔵省金融検査部長が同省の監督権限に基づき発出した不良債権償却証明制度等実施要領がその方針や審査の手続・基準等を定め,「合理的な合併計画や再建計画が作成中あるいは進行中である場合」や「債務者に対して追加的な支援(融資,増資・社債の引受,債務引受,債務保証等)を予定している場合」に当たる取引先(以下「支援先等」という。)については,法人税基本通達9-6-4(1)において債権償却特別勘定に繰り入れることができる場合とされている「事業好転の見通しがない」と判断することは原則として適当ではないとされていた。
 また,上記実施要領において,有税引当等については,金融機関等の自主判断により行われるものであるとされていた。
 このような決算経理基準の下においては,金融機関は,税法において,無税償却・引当が認められる要件を充足した貸出金については,償却証明を得て償却・引当を行うが,それ以外の貸出金については,金融機関の自主判断により有税償却・引当を行うのが一般的となっており,銀行等金融機関の支援先等は,原則として償却・引当をしないとする慣行があった(以下,このような扱いを「税法基準」という。)。
(2)いわゆるバブル経済崩壊後の金融機関の不良債権の増大を受けて,金融機関経営の健全性の確保や金融システムの安定化等のため,平成8年6月21日,「金融機関等の経営の健全性確保のための関係法律の整備に関する法律」など,いわゆる金融3法が成立し,銀行法及び長期信用銀行法等も一部改正され,銀行経営の健全性を確保するための金融行政当局による新たな監督手法として,平成10年4月1日から,同年3月期以降の決算を対象として早期是正措置制度が導入されることになった。
 大蔵省銀行局長の私的研究会である「早期是正措置に関する検討会」は,平成8年12月26日,自己査定ガイドラインの原案などを内容とする「中間とりまとめ」を公表した。
(3)大蔵省金融検査部長は,平成9年3月5日,上記検討会における検討を踏まえ,金融証券検査官等あてに「早期是正措置制度導入後の金融検査における資産査定について」と題する通達(以下「資産査定通達」という。)を発出し,金融業界に公開された。この通達は,早期是正措置制度導入後の金融検査における資産査定が金融機関による自己査定等を前提としてより適切かつ統一的に行い得るよう作成されたもので,金融証券検査官は,検査においては,金融機関の行う自己査定について,その基準が明確かどうか,その枠組みが資産査定通達の枠組みに沿っているか等を把握し,さらに,当該基準に沿って適切に自己査定が行われているかどうかをチェックするとしている。この通達においては,貸出金の査定に当たっては,まず,〔1〕債務者の財務状況,資金繰り,収益力等により返済能力を判定して,債務者について,その状況等により,「正常先」「要注意先」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」の5つに区分し(いわゆる「債務者区分」),〔2〕次に,資金使途先等の内容を個別に検討し,〔3〕さらに,各区分ごとに担保や保証等の状況を勘案の上,貸出金の分類(1分類から4分類まで)を行うとした。
(4)全国銀行協会連合会は,その融資業務専門委員会が,大蔵省金融検査部とも相談の上,資産査定についての一般的な考え方をまとめた「『資産査定について』に関するQ&A」を,平成9年3月12日付けで,全国の金融機関に送付した。また,日本公認会計士協会は,同年4月15日付けで,資産査定通達の考え方を踏まえて,「銀行等金融機関の資産の自己査定に係る内部統制の検証並びに貸倒償却及び貸倒引当金の監査に関する実務指針」(いわゆる「4号実務指針」)を公表した。
(5)平成9年7月31日,基本事項通達で定められた決算経理基準の中の「貸出金の償却」及び「貸倒引当金」の規定などが改正され(以下「改正後の決算経理基準」という。),大蔵省銀行局長から日債銀代表取締役頭取あてに,平成10年3月期の決算から適用することが通知された。改正後の決算経理基準は,「資産の評価は,自己査定結果を踏まえ,商法,企業会計原則等及び下記に定める方法に基づき各行が定める償却及び引当金の計上基準に従って実施するものとする」とした上で,〔1〕回収不能と判定される貸出金等については,債権額から担保処分可能見込額及び保証による回収可能額を減算した残額を償却すること,〔2〕回収不能と判定される貸出金等のうち上記〔1〕により償却するもの以外の貸出金等については回収不能額を,最終の回収に重大な懸念があり損失の発生が見込まれる貸出金等については債権額から担保処分可能見込額及び保証による回収可能額を減算した残額のうち必要額を,それぞれ債権償却特別勘定に繰り入れるものとすること,〔3〕これら以外の貸出金等について,合理的な方法により算出された貸倒実績率に基づき算定した貸倒見込額を引き当てることなどを定めていた。
 大蔵省は,平成9年7月に,決算経理基準の改正に先立って不良債権償却証明制度等実施要領を廃止した。
(6)日債銀は,資産査定通達に基づく査定基準として自己査定基準を作成し,これに従って行われた自己査定の結果に基づいて,平成10年3月期決算案を策定し,常務会,取締役会及び株主総会での承認を経て,同期に係る有価証券報告書を完成させ,平成10年6月29日,大蔵省関東財務局長あてにこれを提出した。
 上記自己査定結果によると,D(メインバンクであるE銀行のほか,日債銀等3行を含めた主力4行から融資を受けて業務を営んでいた独立系ノンバンクで,平成7年4月から主力4行により3年間の予定で事業計画に基づく支援が開始されていた。)及びF(メインバンクであるG銀行や準メインバンクである日債銀等から融資を受けて事業を営んでいた独立系ノンバンクである。)の債務者区分は破綻懸念先とされ,H等13社及びI等5社の債務者区分は要注意先又は破綻懸念先とされた。
3 以上の事実関係を前提にして,原判決は,第1審判決を是認して被告人らに対し虚偽記載有価証券報告書提出罪の成立を認めた。その理由の要旨は,次のとおりである。
(1)早期是正措置制度の導入に至る経緯,その導入決定と資産査定通達の発出,決算経理基準の改正の経緯や内容等からすると,資産査定通達等は,早期是正措置制度を有効に機能させることを目的として策定されたもので,会計処理の基準として内容的な妥当性や合理性を有しており,その周知も十分に図られ,実施に必要な準備期間も確保されるなどしていることから,平成10年3月期決算当時においては,資産査定通達等の示す基準に従って会計処理をすることが,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)32条2項の定める唯一の「公正ナル会計慣行」になっていた。これと両立し得ない関係にある改正前の決算経理基準のもとでの税法基準に基づく会計処理は,決算経理基準の改正により明示的に否定されたものとみるのが相当である。
(2)資産査定通達等の基準に従えば,日債銀の平成10年3月期におけるD,F,H等13社及びI等5社の債務者区分はいずれも実質破綻先に当たり,次のとおりの償却・引当不足額等が認められる。
ア D
 平成7年4月からは主力4行により3年間の予定で事業計画に基づく支援が開始されたが,支援体制が崩壊し,平成9年9月,メインバンクであるE銀行は,平成10年1月に特別清算予定のプレス発表を行い,同年4月以降に特別清算を申し立てる旨のスケジュールを他の主力3行に提案したが,日債銀は,平成10年3月期の償却・引当を先送りする方針の下に,上記プレス発表の時期の延期を求めて動くなどし,その時期を平成10年4月上旬に変更させた上,上記経緯等を監査法人に知らせなかった。
 Dは,当期純損益ベースで,平成6年3月期から5年連続で赤字を計上し,平成9年3月期までは,簿価上は債務超過ではなかったが,平成10年3月期には,貸出金約1930億円を債権償却特別勘定に繰り入れ,資産が一挙に減って約2674億円の債務超過に陥っており,現状は,経営破綻の状況にはないが,単に,法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないというだけで,深刻な経営難の状態にあり,再建の見通しがない状態にあるといえ,実質破綻先に当たる。平成10年3月期における日債銀の貸出金残高389億7892万9636円のうち,290億930万2348円が4分類に当たるのに対し,日債銀は,約80億5687万円を債権償却特別勘定に繰り入れただけであるから,その差額である209億5200万円(100万円未満切捨て)が償却・引当不足額となる。
イ F
 業況の悪化から,G銀行及び日債銀に支援を求め,再建計画を策定したが頓挫するなどした。メインバンクであるG銀行は,平成9年10月ころ,Fとの間で任意整理案を合意したが,日債銀が強く反対したため,平成10年3月期の整理・清算を断念した。日債銀は,上記任意整理案に関する経緯等を監査法人に知らせなかった。
 Fは,新規の貸付けは行っておらず,リースや割賦金の回収作業を行っているのみという状況で,その収益力も全くなく,資金繰りにも窮し,その財務状況も,6期連続で赤字を計上し,5期連続で簿価上でも債務超過に陥っており,返済能力は全くないといえるなど,実質破綻先に当たる。平成10年3月期における日債銀の貸出金残高647億294万6634円のうち,222億5906万1597円が4分類に当たるのに対し,日債銀は,約14億7180万円を債権償却特別勘定に繰り入れただけであるから,その差額である207億8700万円(100万円未満切捨て)が償却・引当不足額となる。
ウ H等13社
 H等13社は,もともと日債銀の関連ノンバンクの不良資産の受皿会社であり,平成9年4月の大蔵省の金融検査の際の4分類査定を回避する目的で,日債銀において,急きょ,上記関連ノンバンクの破産管財人から買取り,再建支援を約束することになったもので,平成10年1月ころ,Jグループを形成させることになった。H等13社は,大幅な債務超過に陥っており,独立企業としての実態はなく,財務状況,資金繰り,収益力等のいかなる点を考慮しても,返済能力がないことは明らかである。
 日債銀は,平成9年11月,Jグループにつき合計700億円規模の新規事業の構想を立て,再建計画を策定したが,償却・引当を回避するための形ばかりのもので,支援意思が真意のものであるか疑念を抱かせるものである上,再建計画の合理性や再建の見通しもなく,実質破綻先に当たる。平成10年3月期における日債銀の貸出金合計1843億4969万9592円のうち,618億6148万9350円(100万円未満切捨ての計算で618億5400万円)が4分類に当たるのに対し,日債銀は,全く償却・引当を行っていないから,618億5400万円(100万円未満切捨て)が償却・引当不足額となる。
エ I等5社
 I等5社が属するKグループは,日債銀等の不良資産である担保不動産を取得させる目的で設立された受皿会社等であって,保有する物件で事業化を進めて債権の極大回収を図る目的であったが,予定した事業は頓挫した状態にあり,I等5社も,独立企業としての実態はなく,その財務状況も赤字及び債務超過の状態が継続し,収益力はなく,利息支払さえ自力でできずに日債銀からの資金の追加融資を受けて賄っている状況にあり,返済能力がないことは明らかである。
 日債銀は,Kグループにつき,平成10年4月の常務会で支援の機関決定をしたが,主たる目的が監査法人向けのものであり,支援意思が真意のものか疑念を抱かせるものである上,再建計画についても,時期や金額が不明確であるなど,将来,事業が進展し,元本返済を含めた収益をあげることを相当程度にうかがわせるものはなく,再建の見通しがないものとして,実質破綻先に当たる。平成10年3月期における日債銀のI等5社に対する貸出金合計694億9486万94円のうち,561億9150万2735円(100万円未満切捨ての計算で561億8900万円)が4分類に当たるのに対し,日債銀は,全く償却・引当を行っていないから,561億8900万円(100万円未満切捨て)が償却・引当不足額となる。
(3)したがって,日債銀の平成10年3月期決算における当期未処理損失額は,上記各社に対する償却・引当不足額の合計金額1597億8200万円から,債務者区分の変動に伴う一般貸倒引当金の過大評価額5億2900万円,及び有税債権償却特別勘定への繰入額変動に伴う税効果相当取崩額2000万円を減算した1592億3300万円に,公表の当期未処理損失額612億7400万円を加算した2205億700万円であったと認められる。そうであるにもかかわらず,1592億3300万円の償却又は引当をしないことにより,当期未処理損失を過少に計上して作成された本件有価証券報告書には重要な事項につき虚偽の記載があるといえ,虚偽記載有価証券報告書提出罪に関する被告人らの故意及びその共謀も認めることができる。
4 しかしながら,原判決の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)原判決は,前記3のとおり,平成10年3月期決算の当時において,資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準に従うことが唯一の公正なる会計慣行であって,改正前の決算経理基準のもとでの税法基準に基づく会計処理は,公正性を失っており,もはやこれによる会計処理は許されないことになったとするものである。
 しかしながら,資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準は,償却・引当については,有税・無税にかかわらず,同基準の定める額を引き当てることを求めるものであるが,その前提となる貸出金の評価については,金融機関がその判断において的確な資産査定を行うべきことが強調されたこともあって,大枠の指針を示す定性的なもので,その具体的適用は必ずしも明確となっておらず,また,資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準が,合理的な再建計画や追加的な支援の予定があるような支援先等に対する貸出金についてまでも同基準に従った資産査定を厳格に求めるものであるか否か自体も明確ではなかったことが認められる。すなわち,記録によれば,
ア 資産査定通達において債務者区分の概念が初めて導入され,債務者の区分に応じて貸出金の分類がされることとなった。その結果,実質破綻先と査定されれば貸出金の無担保無保証部分が4分類(回収不可能又は無価値と判定される貸出金)となり償却しなければならなくなるのに対し,破綻懸念先と査定されれば貸出金の無担保無保証部分は3分類(最終の回収又は価値について重大な懸念が存し、従って損失の発生の可能性が高いが,その損失額について合理的な推計が困難な貸出金)となり必要額を債権償却特別勘定に繰り入れることで足りるという大きな違いが生ずることとなった。しかしながら,その定義を見ると,破綻懸念先は「現状,経営破綻の状況にはないが,経営難の状態にあり,経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく,今後,経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者をいう。具体的には,現状,事業を継続しているが,実質債務超過の状態に陥っており,業況が著しく低調で貸出金が延滞状態にあるなど事業好転の見通しがほとんどない状況で,自行(庫・組)としても消極ないし撤退方針としており,今後,経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる先をいう」とされ,実質破綻先は「法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの,深刻な経営難の状態にあり,再建の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者をいう。具体的には,事業を形式的には継続しているが,財務内容において多額の不良資産を内包し,あるいは債務者の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し,実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており,事業好転の見通しがない状況(中略)で,元金又は利息について実質的に長期間延滞している先などをいう」とされているだけで,例えば,「実質債務超過の状態」(破綻懸念先)と「実質的に大幅な債務超過の状態」(実質破綻先),「事業好転の見通しがほとんどない状況」(破綻懸念先)と「事業好転の見通しがない状況」(実質破綻先)のように,その具体的適用の違いが必ずしも明確ではないなど,資産査定通達は,全体的に,定性的かつガイドライン的なものでしかなかった。
イ また,破綻懸念先の定義において,「自行(庫・組)としても消極ないし撤退方針としており,今後,経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる先をいう」とあるように,税法基準におけると同様に,支援先等に対する特別の考慮を許容する表現が含まれており,消極ないし撤退方針とするまでに至っていない支援先等は破綻懸念先にすら含まれないとの解釈の余地もあるなど,合理的な再建計画や追加的な支援の予定があるような支援先等に対する貸出金の査定に関してまで資産内容の実態を客観的に反映させるという資産査定通達の趣旨を徹底させるものか否かが不明確であった。 
ウ 実際に,本件当時を含め長年金融機関の償却・引当の実務に携わりこれに関する著作もある証人が,資産査定通達における債務者区分で一番苦労したのは支援先をどこに区分するかという問題であり,消極ないし撤退方針にしていない支援先については破綻懸念先にしなくてもよいとの解釈がかなり強く,大多数の問題先が結果的に要注意先にとどまった旨を述べている。また,日債銀のみならず,他の大手行についても,貸出金分類額及び要償却・引当額につき,自己査定と金融監督庁の金融検査結果とのかい離が指摘されていた。
エ 以上からすると,平成10年3月期の決算に関して,多くの銀行では,支援先等に対する貸出金についての資産査定に関して,厳格に資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準によるべきものとは認識しておらず,当時において,資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準は,その解釈,適用に相当の幅が生じるものであり,将来的に実務を積み重ねることで自己査定の具体的な判断内容の精度や整合性を高めていくという性質を内包したものといわざるを得ない。
(2)このように,資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準は,特に支援先等に対する貸出金の査定に関しては,幅のある解釈の余地があり,新たな基準として直ちに適用するには,明確性に乏しかったと認められる上,本件当時,従来の税法基準の考え方による処理を排除して厳格に前記改正後の決算経理基準に従うべきことも必ずしも明確であったとはいえず,過渡的な状況にあったといえ,そのような状況のもとでは,これまで「公正ナル会計慣行」として行われていた税法基準の考え方によって支援先等に対する貸出金についての資産査定を行うことも許容されるものといえる。
5 そうすると,本件当時,資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準に従うことが唯一の公正なる会計慣行であったとし,税法基準の考え方に基づく会計処理を排斥し,資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準の定める基準に従って日債銀の貸出金の評価をし,平成10年3月期決算において日債銀に2205億700万円の当期未処理損失があったとした原判決は,その点において事実を誤認して法令の解釈適用を誤ったものであって,破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
 ところで,税法基準による貸出金の評価は,債務者区分という概念を介在させることなく個別に4分類かどうかを判断するものといえるが,合理的な再建計画や追加的な支援の予定があるような支援先等については「事業好転の見通しがない」とすることは原則として適当でないとする処理を前提に,貸出先が上記のような支援先等に当たる場合には,原則としてこれらに対する貸出金等を回収不能と評価せず,償却・引当をしないという考え方に基づくものといえ,これからすれば,母体行主義の下において原則として支援が求められる関連ノンバンクなど,上記のような貸出先に当たる取引先については「事業好転の見通しがない」とはいえず,これに対する貸出金につき償却・引当をしなくても直ちに違法とまではいえないことになる。しかしながら,本件貸出先は上記のような関連ノンバンクではなく,原則として支援が求められる貸出先ということはできない。また,原判決によれば,前記3(2)記載のとおり,D及びFについては,日債銀において現に支援している状況にあるとはいえず,平成9年には各社及び日債銀を含む主力関係金融機関においていずれも整理せざるを得ないことが共通の認識となってはいたものの,平成10年3月期における多額の償却・引当を避けようとする日債銀の意向から特別清算申立て予定の公表が延期されるなどしたというのであり,H等13社及びI等5社については,不良資産の受皿会社であって,独立企業としての実態はなく,再建計画や支援の機関決定はあるにしても,償却回避のための形ばかりのものであったり,主たる目的が監査法人向けのものであるなど,支援意思や再建計画が真意かどうか疑念を抱かせるものであったというのである。これらの原判決が認定した本件決算処理の経緯等によると,上記の貸出先が前記の税法基準の考え方により「事業好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たると直ちにいうことには疑問があるところ,原判決は,あくまで資産査定通達等によって補充された改正後の決算経理基準が唯一の基準であるとして債務者区分を行い,貸出金を査定しているものであって,従来採られていた税法基準の考え方に従って適切に評価した場合に,これらの貸出先が「事業好転の見通しがない」とすることが適当でない取引先に当たるかどうか,これらに対する本件貸出金が回収不能又は無価値と評価すべきものかどうかについては必ずしも明らかとはいえず,その点について,その当時行われていた貸出金の評価や他の大手銀行における処理の状況をも踏まえて,更に審理,判断する必要がある。
なお、企業の担当者で、従業員の逮捕など刑事弁護事件についてご相談があれば、契約している顧問弁護士にご確認ください。そのほか、個人の方で、不当な解雇保険会社との交通事故の示談交渉未払いの残業代請求多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題オフィスや店舗の敷金返還(原状回復)などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。
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